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浦和地方裁判所川越支部 昭和60年(ワ)107号 判決 1988年7月25日

原告 畑中厚子

右訴訟代理人弁護士 渡辺武

被告 清水永植

右訴訟代理人弁護士 高松滋

被告 川越市

右代表者市長 川合喜一

右訴訟代理人弁護士 宇津木浩

被告 多摩中央信用金庫

右代表者代表理事 中嶋榮治

右訴訟代理人弁護士 須崎一郎

同 田渕智久

主文

一  被告清水永植と原告間において、別紙物件目録(一)記載の家屋が原告の所有であることを確認する。

二  被告清水永植は原告に対し、別紙物件目録(一)記載の家屋につき別紙登記目録(2)の抹消登記手続をせよ。

三  被告多摩中央信用金庫、被告川越市は原告に対し、訴外松平商事有限会社のなす登記目録(1)の抹消登記手続を承諾せよ。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、川越市三光町三七番六、宅地一六五・二八平方メートル(以下本件土地という)及び同土地上に別紙物件目録(二)の家屋(以下物件(二)の家屋という)を各所有している。

2  訴外松平商事有限会社(以下松平商事という)は、昭和五〇年五月頃右物件(二)の家屋の南側四一・四〇五平方メートルを取りこわし、新たに、その部分に二階建の別紙物件目録(一)の家屋(以平物件(一)の家屋という)を増築し、昭和五〇年八月五日これについて建物新築を理由に、物件(二)の家屋とは別個の区分建物であるとして、昭和五〇年一〇月九日別紙登記目録(1)の保存登記をなした。

3  しかし、物体(一)の家屋は、原告所有の物件(二)の家屋に、松平商事がこれを付着させたもので、物件(二)の家屋に附合したものである。

従って、松平商事の(1)の登記は無効のものである。

4  物件(一)の家屋には、昭和五六年六月二七日受付をもって訴外名取章へ、同年一〇月二三日受付をもって被告清水永植あての別紙登記目録(2)の所有権移転登記がなされているが、いずれもこれは前記の如く無効の登記である。

5  よって、原告は被告清水に対し、物件(一)の家屋についての登記目録(2)の登記の抹消登記手続と同建物が原告の所有であることの確認を求める。

6  なお、物件(一)の家屋には、被告川越市の登記目録(3)の差押登記が、被告多摩中央信用金庫の登記目録(4)の抵当権設定登記が各経由されている。

しかし、物件(一)の家屋についてなされている登記目録(1)の保存登記は、前述の如く無効のものである。

7  よって、原告は、不動産登記法一四六条に基づき、被告川越市、被告多摩中央信用金庫に対し、訴外松平商事のなす登記目録(1)の保存登記の抹消登記手続についての承諾を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告清水)

1 1のうち、本件土地が原告の所有であることは不知、物件(二)の家屋が原告の所有であることは否認する。

2 2の事実は認める(物件(一)の家屋は、同(二)の家屋とは別個のものである)。

3 3の事実は否認する。

物件(二)の家屋は登記のみ残っているだけで、独立性を失っている。

4 4は認める、登記は有効である。

5 5は争う。

6 被告清水の主張

(一) 原告所有の物件(二)の家屋というのは、昭和五〇年五月頃取りこわされて、残っているのは、下屋の一六・〇七平方メートル(別紙第一図D部分)とその後分にある居宅二八・九八平方メートル(同図C部分)だけであり、しかも朽廃して、ただ建っているだけのものである。

(二) これに対し物件(一)の家屋は、訴外松平商事が新築(昭和五〇年八月)したものであって、一階九一・四五平方メートル、二階六二・九五平方メートル(第一図のA、B、部分)である。

右のとおり、建物の状態からも、経済的効用からも、物件(二)の家屋は大部分が取りこわされて独立性を失ない、物件(一)の家屋に附合した。

(三) 被告清水は、請求原因4のとおり、物件(一)の家屋を買受けて所有権を取得した。

従って、物件(一)の家屋は被告清水の所有であり、訴外松平商事のした別紙登記目録(1)の保存登記は有効である。

(被告多摩中央信用金庫)

1 1の事実は知らない。

2 2の事実は認める。

3 3の事実は争う。

4 4の事実は認める、登記は有効である。

5 6、7のうち、被告金庫の登記を認め、その余は争う。

6 その余は、被告清水の主張を援用する。

(被告川越市)

1 本件土地及び物件(二)の家屋が原告の所有であることは認める。

但し、家屋の面積は否認する。

2 2は認める。

但し、物件(一)の家屋は新築された独立の建物である。

3 3は争う。

4 4は認める、登記は有効である。

5 6、7のうち被告川越市の登記を認め、その余は争う。

6 その余は、被告清水の主張を援用する。

第三証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、本件土地と物件(二)の家屋は原告の所有であることが認められる。

二  そこで物件(一)の家屋の建築の経緯について検討する。

《証拠省略》によれば、

1  物件(二)の家屋は、もと木造トタン葺平家建で二二坪位の家屋であり、これを石野孝次郎が原告から賃借し、同人はこれを店舗として、武蔵野電気と称して電気工事業をしていた。

2  石野は、このほかにアパートを借りて住居としていたが、物件(二)の家屋の上に一部屋を作って、そこを住居にしたいとして原告に相談したところ、昭和五〇年春ころ原告から、二階部分は一間だけとすること、一階部分からの通し柱は使用しないこと、完成した部屋は原告の所有とすることとの三つの条件をつけられて承諾をえた。

3  この建築を担当したのは石野孝次郎と武蔵野電気を共同経営していた今村正敏であるが、同人は、原告と石野の話合に関与していなかったことから自己一人の計画により、物件(二)の家屋の一部を取りこわして、そのあとに、同年八月頃物件(一)の家屋を新築してしまった。その面積や構造は別紙物件目録(一)の専有部分の表示のとおりである。

ところが今村は、当時株式会社三商の代表取締役をしており、物件(一)の家屋はその店舗として利用する計画でいたところ、たまたまその頃三商が倒産したことから、三商の系列会社であった松平商事有限会社の名前で保存登記を経由してしまった。

4  そのため、物件(一)の家屋については、被告川越市の差押登記や被告多摩中央信用金庫の抵当権設定登記がなされるようになった。

以上の事実が認められる。

《証拠判断省略》

三  物件(一)の家屋についてなされている保存登記の効力の有無について

《証拠省略》を総合すると

1  物件(一)の家屋と同(二)の家屋の面積と位置関係は別紙第一、第二図記載のとおりであり、第一図のA部分が物件(一)の家屋であり、その他のBCD部分が同(二)の家屋の部分であり、その接合関係は別紙第二図のとおりである。

2  現在の建物の利用状況は、Aの一階部分の西側とその二階部分及びCの部分を一世帯で利用し、その他の部分は使用されていない。

A部分とB部分は家具で仕切られているだけであり、C部分からは、DBAを通って、南側の道路に出るようになっている。

3  A部分とB部分の間は、別紙第二図のとおり、(イ)、(ロ)、(ハ)の建具もない開口部であり、B部分の小屋梁がA部分の間柱(主柱でなく壁に取りつけるための小さい柱)に取付けられているし、A部分の流しの排水管はBの部分を通過しており、屋根や柱も一部共用されており、A部分を利用するにはB部分が必要である。

そして、A部分を解体するとB部分も壊れてしまい、B部分のみで存立することは不可能の状態である。

また、B部分とD部分の間には柱が二本あるのみで壁はなく、C部分とD部分は、第二図記載の如く、建具のある開口部(ホ)と建具のない(ニ)とで接続しているだけである。

以上の事実が認められる。

右認定の事実によれば、物件(一)の家屋と同(二)の家屋は、その利用状態は一体となっており、構造的にも、柱や梁が互の建物のために利用されており、そのため、A部分を利用するにはB部分の存在が必要であり、A部分を解体すればB部分は壊れてしまうという密接不可分の関係にある。

これらの事実を総合すると、物件(一)の家屋と同(二)の家屋が別個独立の建物ということはできない。

そうすると、物件(一)の家屋は、建物の区分所有等に関する法律一条にいう、「構造上区分された数個の部分で独立して……建物としての用途に供することができるもの」ということもできない。

もっとも、《証拠省略》によれば、物件(一)の家屋と同(二)の家屋は、外観的には一見別個の建物のようにみることが出来る。

また、《証拠省略》によれば、物件(一)の家屋の新築とその旨の登記により、同(二)の家屋については一部消滅があったとして、滅失の登記がなされている旨の記載のある部分もあり、事実その旨の登記がなされていることが認められるが、例え、そのような事実があったとしても、建物の構造や利用方法が前記のように制限されていることからすると、右の事実は(一)と(二)の家屋が別個の建物ではないとする前記の認定を妨げるものではないと解する。

そして、物件(一)の家屋は、前記二の12で認定説示した経緯によって建築されたことからすると、物件(一)の家屋は、原告所有の物件(二)の家屋に附合したものと認定するのが相当である。

そうすると、訴外松平商事のなした、登記目録(1)の保存登記は無効ということになる。

4  そして、物件(一)の家屋の所有権とその移転登記は、松平商事から訴外の名取章に、同人から被告清水に譲渡経由されている(この点は当事者間に争いがない)のであるから、被告清水は原告に対し別紙登記目録(2)の登記の抹消登記手続をなす義務があることとなる。

四  右説示の経過からすると、被告川越市と被告多摩中央信用金庫は、原告が松平商事に対してなす登記目録(1)の保存登記の抹消登記手続について、不動産登記法一四六条による承諾義務があることも明らかである。

五  以上の次第であるから原告の被告清水に対する物件(一)の家屋の所有権が原告にあることと別紙登記目録(2)の抹消登記手続を求める請求及び被告川越市、同多摩中央信用金庫に対する不動産登記法一四六条に基づく各承諾請求はいずれも正当である。

よって、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荒川昂)

<以下省略>

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